M&Aでのシナジー効果とは?種類・定量化による評価・成功事例

M&Aにおけるシナジーとは、統合によって単独以上の価値を創出する相乗効果です。本記事ではシナジー効果の種類、重要性、分析フレームワークを整理し、中小企業経営者にも分かりやすく活用方法を解説します。

シナジー効果とは


M&Aにおけるシナジー効果とは、譲渡企業と譲受企業が一体となることで、双方が単独で活動した場合を上回る利益や価値を生み出すことです。具体的には、A社の「1」とB社の「1」が単純加算の「2」を超え「3」や「4」といった成果になる状態を意味します。

シナジーが実現できれば、売上拡大やコスト削減、財務基盤の強化など多方面でベネフィットが得られます。一方、統合が裏目に出て価値が棄損される場合をネガティブシナジー(アナジー効果)と呼びます。企業文化の衝突や顧客離反などが原因で、せっかくのM&Aが負債化する事例も少なくありません。このため、シナジーの有無と実行難易度を見極めることが、M&Aを成功へ導く最重要ポイントとなります。

M&Aでシナジー効果は重要

M&Aの目的は多岐に及びますが、譲受企業が特に重視するのはシナジーの創出です。シナジーは買収価格の根拠として評価されるほか、統合後の事業計画や資金調達計画にも直結します。譲受企業はシナジーを保守的に見積もる傾向があり、譲渡企業が提示するシナジー価値の1割程度しか評価に反映しないことも多いです。したがって譲渡企業は、客観的なデータと論理でシナジーの実現可能性を示し、交渉を有利に進める必要があります。

シナジー効果の分類

シナジーは領域ごとに複数に分類されます。

ポジティブシナジー

M&Aによる好ましい相乗効果には以下のようなものがあります。

売上シナジー

売上シナジーは、統合後のクロスセルやアップセル、販売チャネル共有、ブランド力の相互補強などにより売上高が単純合算を超える効果です。例えば異なる商品群を扱う二社が統合すれば、相互の顧客へ新製品を提案できるため顧客単価が向上します。また、共同で広告宣伝を実施することで認知度が高まり、市場シェア拡大を図ることも可能です。

コストシナジー

コストシナジーは、重複する設備・拠点・間接部門を統合することで固定費や変動費を削減する効果です。生産ラインの統廃合、ITインフラの共通化、物流網の最適化などによって効率性が高まり、短期的に効果を確認しやすいのが特徴です。

財務シナジー

財務シナジーは、統合による信用力向上で資金調達コストが低下したり、繰越欠損金の引継ぎによる節税が可能になったりする効果です。不要資産の売却や資本効率の見直しでキャッシュフローが健全化すれば、成長投資に充てられる資金余力が増えます。

事業シナジー

事業シナジーは、技術・ブランド・人材を融合し、新製品開発や研究開発の促進、サービス品質向上などを実現する効果です。単独では到達困難だった市場や技術領域へ短期間で踏み出せるため、長期的な競争力向上に寄与します。

研究開発シナジー

研究開発シナジーは、技術やノウハウの共有、研究体制の統合により開発効率を高める効果です。重複研究を回避し、リソースを重点分野に集中させることで、革新的な製品を早期に市場投入できます。

マネジメントシナジー

マネジメントシナジーは、経営ノウハウの共有や優れた意思決定プロセスの導入により経営効率を高める効果です。ガバナンス体制を統一し、指標管理を標準化することで、グループ全体の経営スピードが向上します。

オペレーションシナジー

オペレーションシナジーは、サプライチェーンや生産プロセス、顧客サービスの統合で業務を効率化する効果です。リードタイム短縮や品質向上につながり、結果として顧客満足度が高まります。

インベストメントシナジー

インベストメントシナジーは、共同投資や人材育成で投資効率を高める効果です。2社が研究開発を共同で行えば、費用を抑えつつ大規模プロジェクトに取り組めるようになります。

ネガティブシナジー(負のシナジー)

負のシナジーは、統合が逆効果となり価値が減少する現象です。顧客離反、企業文化の衝突、モチベーション低下などが要因となり得ます。ポジティブシナジーを追求するだけでなく、負のシナジーを事前に洗い出し対策を講じる姿勢が不可欠です。

シナジーの譲渡価格への反映

譲渡企業が持っている譲受企業とのシナジー・ポテンシャルは、できるだけ企業価値に折り込み、良い条件で譲渡したいものです。以下では、そのためのポイントを説明します。

シナジーの定量化と企業価値評価

譲受企業は、短期的に実現しやすいコストシナジーを重視する一方、売上シナジーや事業シナジーを過度に楽観視しません。売上シナジーは市場環境や顧客の反応に左右されるため、不確実性が高いからです。

譲渡企業がシナジー価値を適切に主張するには、以下の4つのステップで定量化を行い、実現確率を裏付ける必要があります。シナジーを数値化する際は、単なる概念ではなく財務モデルに落とし込む必要があります。

ステップ1 シナジー項目の洗い出し

まず、売上シナジー・コストシナジー・財務シナジーなどの大分類から、個別の効果要因をブレイクダウンします。例えば売上シナジーなら「チャネル統合による新規顧客数」「クロスセル率向上」などを具体的に列挙します。コストシナジーでは「重複拠点閉鎖による家賃削減額」「共同購買による原材料単価低減幅」などです。

ステップ2 効果額と確率の設定

各項目について、実現タイミング・持続期間・毎期キャッシュイン/アウトを見積もり、実現確率を乗じて期待値を求めます。売上シナジーのように不確実性が高い領域は確率を低めに設定し、コストシナジーは実現可能性が高いため確率を高めに置くのが一般的です。

ステップ3 現在価値への割引

将来キャッシュフローをDCF法で現在価値に換算します。リスクが高いほど割引率を上げ、ネガティブシナジーのリスクを織り込みます。このプロセスを経ることで、譲渡企業は買手に対し定量的なシナジー価値を提示しやすくなります。

ステップ4 交渉資料への落とし込み

算定した現在価値をベースに、希望譲渡価格とその根拠となるシナジー価値をレポート化します。買手候補には一律の概要資料を提示しつつ、特に親和性の高い企業にはNDA締結後に個別プロジェクションを共有し、双方でモデルを精査する方法が推奨されます。

譲受企業とのリスク共有

シナジーの価値を最大限に譲渡価格へ反映するためには、譲受企業とのリスク共有も考えられます。

アーンアウト

いわゆる「アーンアウト条項」は、M&A後の特定期間の業績目標達成に応じて追加で譲渡対価を受け取る仕組みで、シナジー実現に対する譲受企業の懸念を和らげます。ただ、目標設定の水準が高過ぎると、実現困難なまま期間が終了して譲渡オーナーが追加対価を受け取れないリスクがあります。適切な目標は、シナジー定量化モデルで算出した平均値よりややチャレンジングな水準に設定し、期間は通常2〜3年が目安です。売上シナジー中心の場合は景気変動の影響を受けやすいので、複数年度平均で評価する方法が推奨されます。

負のシナジーの回避条項

組織文化の衝突や主要顧客の離反など、負のシナジーが顕在化した場合に備え、再交渉条項や特定リスクの補償条項を最終契約に盛り込むことがあります。事前にリスクを共有することで、両社の関係性を維持したまま課題に対処できる点がメリットです。

シナジーの大きい譲受企業を選ぶポイント

シナジーを最大限に活かす譲受企業を選ぶことは譲渡企業の長期的成功につながります。例えば、以下の視点を参考に検討すると良いでしょう。

事業戦略との整合性

中長期的な価値創造に寄与するには自社の経営戦略と譲受企業の事業戦略が一致しているか確認します。単に提示される譲受価格だけを見るのではなく、成長領域や重点施策の整合性を比較検討します。

顧客基盤と販売チャネルの相互活用

譲渡企業の顧客層が譲受企業の既存顧客と補完関係にあるかを評価します。また双方の販売チャネルを掛け合わせることで新規顧客獲得や販路拡大につながるかを検討します。

コスト構造と経営文化の親和性

両社のコスト構造が似ているか、相乗効果でコスト削減が見込めるかを比較します。さらにビジョンや風土の相性を確認し、統合後のガバナンスや従業員モチベーションに悪影響が出ない譲受企業を選びます。

選定の流れ

複数の譲受候補から意向表明(LOI)を取得後、シナジーの可能性を整理して交渉を主導します。絞り込んだ2~3社と詳細協議を行い、最終的に長期的価値創造に最も貢献する譲受企業を見極めます。

シナジー効果を創出したM&A事例

中小企業が大企業にグループインすることでシナジー効果が生み出された事例をご紹介します。

売上シナジー:X洋菓子店とY食品

地域で人気の洋菓子店であるX洋菓子店(譲渡企業)は、全国に販売網を持つ大手食品メーカーY食品(譲受企業)のグループに入りました。Y食品のスーパーマーケットやコンビニエンスストア、オンラインストアといった多様な販売チャネルを通じて、X洋菓子店の看板商品を全国で販売できるようになりました。これにより、X洋菓子店の商品はより多くのお客様の目に触れる機会が増え、売上が大きく伸びました。一方、Y食品は自社の製品ラインナップに人気洋菓子店のブランドを加えることで、品揃えを強化し、既存顧客への新しい提案が可能になりました。お互いの強みを活かすことで、双方の売上向上につながった例です。

コストシナジー:Z製作所とW工業

特定の部品加工を得意とする町工場のZ製作所(譲渡企業)が、複数の工場を持つ大手機械メーカーW工業(譲受企業)に加わりました。W工業は、自社の既存工場とZ製作所の設備や技術を見直し、重複していた管理部門や一部の製造工程を統合しました。これにより、人件費や工場の維持管理にかかる固定費を削減できました。また、両社で必要としていた原材料をまとめて仕入れることで、仕入れ単価を引き下げ、変動費の圧縮にも成功しました。効率化によってコスト削減を実現したケースです。

財務シナジー:SシステムとTソリューションズ

高い技術力を持つものの、新たな開発のための資金調達に課題を抱えていたソフトウェア開発会社Sシステム(譲渡企業)は、財務的に安定している大手ITサービス企業Tソリューションズ(譲受企業)のグループの一員となりました。Tソリューションズの高い信用力を背景に、Sシステムはこれまでよりも有利な条件で、事業に必要な運転資金や将来のための開発資金を金融機関から借り入れることが可能になりました。これにより、金利負担が軽くなり、会社の財務状況が改善されました。Tソリューションズは、Sシステムの持つ優れた技術力を自社のサービス開発に活かすことができるようになりました。財務面での安定が、事業の成長を支えた好例です。

事業シナジー:UヘルスケアとVファーマ

独自の健康食品素材を開発・製造していたUヘルスケア(譲渡企業)は、大手製薬会社Vファーマ(譲受企業)にグループ入りしました。Vファーマが持つ研究開発能力や製品化に必要な許認可申請のノウハウと、Uヘルスケアが持つユニークな素材開発力を組み合わせることで、新しい健康食品やサプリメントの開発が加速しました。Vファーマが持つ豊富な臨床データや販売ネットワークを活用することで、製品化までの期間を短縮し、より早く市場に製品を届けることができるようになりました。両社の専門知識や資源を融合させることで、単独では難しかったスピード感で新事業展開が可能になった事例といえます。

参考:アンゾフの成長マトリックスと統合パターン

シナジーを体系的に分析するツールとして、アンゾフの成長マトリックスというものがあります。縦軸に「製品」、横軸に「市場」を置き、それぞれ既存と新規で4象限に分類します。

市場✖製品説明
市場浸透戦略既存市場×既存製品同業・同地域の企業同士が統合し、競争相手を減らして市場シェアを高める戦略です。売上シナジーとコストシナジーが同時に期待できますが、過度に進めると独占禁止法リスクを伴います。
新製品開発戦略既存市場×新規製品自社と同一市場で異なる製品を展開する企業を譲受して製品ラインナップを広げる戦略です。技術獲得型M&Aが典型例で、研究開発シナジーと売上シナジーの両立を目指します。
新市場開拓戦略新規市場×既存製品販路や地域が異なる企業を譲受し、既存製品を新市場へ届ける戦略です。物流ネットワークの統合によりコストシナジーも生まれるため、事業拡大と効率化を同時に図れます。
多角化戦略新規市場×新規製品水平型・垂直型・集中型・集約型に分かれる多角化戦略は、最もリスクが高い一方、財務シナジーや事業シナジーによりグループ全体の成長を底上げする可能性を秘めています。高度な知識と慎重な検討が求められるため、M&Aの専門家を活用することが推奨されます。

よくある質問|M&Aのシナジー効果

M&Aで実現を目指すシナジー効果について、FAQをまとめましたので、ご参考ください。

M&Aにおけるシナジーとは何か?

シナジーとは、M&Aや業務提携などで、企業を単純に合計した以上の相乗効果が生まれることです。代表的なものに、売上シナジー、コストシナジーがあります。売上シナジーはクロスセルや販売チャネルの共有、ブランド効果などで売上が増える効果です。コストシナジーは営業拠点の集約や生産拠点の削減、購買力の強化、間接部門の効率化によるコスト削減効果です。

シナジーは譲受企業に認められるものなのか?

譲受企業がシナジーを想定していても、その全てが価値評価に反映されるとは限りません。譲受企業が実際に効果を感じていても、その僅か(1割程度)しか評価されないことがあります。譲渡オーナーは、シナジーを適切に評価してもらい、譲渡価格に反映させるため、力量のあるM&A仲介会社に依頼すると良いでしょう。

どのようなシナジーの実現可能性が高いのか?

一般的に、コストシナジーは売上シナジーより実現可能性が高いと言えます。コスト削減は意思決定で比較的明確に実行でき、効果を予測しやすい傾向があります。特に、営業拠点の集約や人員削減、仕入れ交渉力の強化などは具体的な効果が見込みやすい例です。一方、売上シナジーは市場の動向や顧客の反応に左右されやすく、予測が難しいため、実現の確実性は劣ります。

譲渡オーナーは譲受企業にどのようにシナジーを示すべきか?

譲渡オーナーは、譲受企業のM&A目的や戦略を理解した上で、どのようなシナジーが期待できるかを具体的に示す必要があります。数値に基づくシナジー効果の予測を資料化し、譲受企業に提示することが有効です。特に、譲受企業の既存事業との関連性や、新規事業の立ち上げを加速する可能性など、戦略的観点からのシナジーを強調すると効果的です。

シナジーの価値を検討する具体的な手順は?

まずどの種類のシナジーがどの程度発生するかを予測します。売上増、コスト削減、研究開発の効率化、資金調達コスト低減などの項目を見ます。次に、これらのシナジーが将来生むキャッシュフローを予測し、適切な割引率で現在価値に割り引いて算出します。

シナジーの価値を企業価値に反映させるにはどうするか?

シナジー価値を企業価値に反映するには、将来のシナジー利益を予測し、現在価値に割り引く方法で算定します。譲渡オーナー側でもシナジー価値の仮説を立てておくことが大切です。例えば、クロスセルによる売上増加やコスト削減効果を具体的に試算し、譲受企業の利益への貢献を示します。譲渡価格に含める交渉では、PER(株価収益率)やEBITDAなどを用いて提案する方法が考えられます。ただし、譲受企業はシナジー全額の上乗せには抵抗するため、交渉力や戦術が鍵となります。

シナジー価値を見積もる際の割引率はどう考えるか?

シナジー価値を見積もる際の割引率は、シナジーの種類や実現可能性に応じて変えるのが適切です。一般に、不確実性の高い売上シナジーには高い割引率を、確実性の高いコストシナジーには低い割引率を適用します。これは、リスクが高いほど将来キャッシュフローの現在価値が低く評価されるためです。個別案件の状況や譲受企業の見解を踏まえて、適切な割引率を設定する必要があります。

譲渡オーナー側から負のシナジーの可能性を伝えるべきか?

負のシナジー(M&Aによってマイナスの影響が生じる可能性)は、譲受企業も認識していることが多いです。例えば、競合顧客との関係悪化による顧客離反などが考えられます。重大な負のシナジーが予想される場合は、早い段階で透明性を持って譲受企業に伝えることで信頼関係を築き、交渉を円滑に進める助けになります。ただし、伝え方次第では譲受意欲を削ぐ可能性もあるため、慎重に判断する必要があります。

M&Aのシナジー効果のまとめ

M&Aの成否はシナジー効果を具体的に設計し、確実に実装できるかに懸かっています。また、M&Aにおけるシナジー効果は、M&Aを実行する相手によって変わります。

みつきコンサルティングは、経営コンサルティング経験者も多く在籍しており、対象企業の詳細な事業分析を実施した上でシナジー創出を見込める候補先の紹介が可能です。経験豊富なM&AアドバイザーがM&A成功に向けサポートしますので、M&Aを検討の際にはご相談ください。

著者

潟野和徳
潟野和徳名古屋法人部長/M&A担当ディレクター
人材支援会社にて、海外人材の採用・紹介事業のチームを率いて新規開拓・人材開発に従事。みつきコンサルティングでは、強みを生かし人材会社・日本語学校等の案件を中心に工事業・広告・IT業など多種に渡る案件支援を行う。M&Aの成約実績多数、経験年数10年以上
監修:みつき税理士法人

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